とろみ・食分類についてTHICK / CLASSIFICATION
とろみについてTHICK
水の特徴である流動性を抑え、凝集性を高めるためには、とろみをつける水の半固形化が重要
“摂食嚥下(えんげ)障害者はスプーン一杯の水で溺れる”という言葉が示すように、摂食嚥下障害をもつ人にとって誤嚥のリスクが最も高い食品は水である。私たちの咽(のど)は普段は呼吸をするために利用されているため、咽頭内には空気の入り口である喉頭が解放し空気を気管内に取り入れている。水などの食べ物が咽頭内に流入してくるタイミングで喉頭を閉じ、食道を開いて飲み込む。この喉頭を閉じると同時に食道を開く時間はわずかに0.3秒から0.5秒のタイミングで行われており、誤嚥することなく食物を嚥下するためにはこのタイミングが重要となる。水はあらゆる食品のなかで、流動性が高く、凝集性が低い。すなわち、水を飲もうとした時に、口腔や咽頭内で素早く動き、ばらばらに動く。これにより、水は最も嚥下とのタイミングを合わせにくい食品となり誤嚥のリスクが高まる。
この水のある意味困った特徴である流動性を抑え、凝集性を高めるためには、水の半固形化が重要となる。とろみをつけるということである。とろみがつくと口腔咽頭内でまとまりがよくゆっくり流れてくれるので、誤嚥のリスクが低減すると言うことである。しかし、とろみをつけすぎると付着性が増し、かえって嚥下を困難にし、窒息の危険すらあるので注意が必要である。
3段階のとろみの基準
学会分類2013(とろみ)では、嚥下障害者のためのとろみ付き液体を「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分けて表示している。以下、学会が公表しているとろみの基準を引用する。
薄いとろみとは、中間のとろみほどのとろみの程度がなくても誤嚥しない、より軽度の症例を対象としている。口に入れると口腔内に広がり、飲み込む際に大きな力を要しない。コップを傾けると落ちるのが少し遅いと感じるが、コップからの移し替えは容易であり、細いストローでも十分に吸える。中間のとろみよりもとろみの程度が軽いため、患者の受け入れは良い。
中間のとろみとは、明らかにとろみがあることを感じるが、「drink」するという表現が適切なとろみの程度である。口腔内での動態はゆっくりですぐには広がらず、舌の上でまとめやすい。スプーンで混ぜると少し表面に混ぜ跡が残り、スプーンですくってもあまりこぼれない。コップから飲むこともできるが、細いストローで吸うには力がいるため、ストローで飲む場合には太いものを用意する必要がある。
濃いとろみとは、重度の嚥下障害の症例を対象としたとろみの程度である。中間のとろみで誤嚥のリスクがある症例でも、安全に飲める可能性がある。明らかにとろみがついており、まとまりが良く、送り込むのに力が必要である。スプーンで「eat」するという表現が適切で、ストローの使用は適していない。コップを傾けてもすぐに縁までは落ちてこず、フォークの歯でも少しはすくえる。
各メーカーとろみ調整食品のとろみの強さ
各メーカーが販売しているとろみ調整食品のとろみの強さを、測定結果が 350mPa ・ s を基準点として、「標準」と「少量高粘度」に分類しました。こうしてみると各メーカーの調整食品には、あきらかにとろみ強度の違いが見られるます。とろみの強度を間違うと誤嚥のリスクにも繋がりかねないので、とろみ調整食品を購入される場合には、下記のとろみデータ表を是非参考にしてください。
経腸栄養剤などのとろみのつけ方「二度混ぜ法」について
嚥下障害のある低栄養の方に経腸栄養剤や濃厚流動食品を経口摂取頂く場合、流動性や付着性を調整し、嚥下しやすい物性を持たせる必要があります。嚥下障害患者にとって、流動性の高いままの経腸栄養剤の嚥下は誤嚥のリスクを伴うためです。 しかし、経腸栄養剤や濃厚流動食品のような、たんぱく質含有量が多いものの場合、とろみ調整食品の種類によっては多量に必要となる場合や、とろみがつくのに時間を要する場合があります。そこで、「二度混ぜ法」をおすすめします。とろみのつきにくい食品に対するとろみ調整食品の使用法で、「二度混ぜ法」が知られていますが、この方法は、経腸栄養剤や濃高流動食品に対して有効です。
イノラス配合経腸溶液とラコールNFの粘度調整の粘度調整
市販の各種とろみ調整食品を用いて、「イノラス配合経腸溶液」と「ラコールNF」の粘度調整を「二度混ぜ法」で行い、それらの粘度を測定して、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類2013のとろみ分類の範囲になる添加量をもとめました。患者さん個々の適したとろみの具合を鑑み臨床場面で、これらの目安を有効に利用頂ければと思います。
食分類についてCLASSIFICATION
日本摂食嚥下リハビリテーション学会では、「嚥下調整食学会分類2021」を公表し、病院や施設での食形態の分類を提案
咀嚼機能や嚥下(えんげ)機能が低下した人に適正な食形態を提案することは、低栄養予防の観点からも、窒息予防の観点からも重要です。ひとが、食事をするときに最低限備えていなければならないのは、“飲み込む”機能です。しかし、その前に、咽頭に食物を送り込む機能や送り込む前に食べ物をまとめ上げる機能が求められます。さらに固形物を食べるためには、食物を押しつぶしたり、すりつぶしたりする機能が求められます。これらを広い意味での咀嚼機能と言い、これらの機能が備わっているかどうかで、適正な食形態が決定されます。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会では、「嚥下調整食学会分類2021」を公表し、病院や施設での食形態の分類を提案しています。飲み込むだけの能力の人には、コード0や1を、送り込む力がある人にはコード2-1を、まとめる力ある人には、コード2-2を、押しつぶす力、すりつぶす力がある人にはそれぞれ、コード3、4といった具合です。このコードを多くの施設や病院で利用することによって、嚥下調整食品の地域連携も可能になります。これまで、各病院、各施設でバラバラの表記で、さらに独自の基準で食形態を表現している傾向にあります。このコードの利用によって、患者が施設を移動しても本人の機能に合致した食形態を継続して提供できることになります。
以下、それぞれのコードについて日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会が発行した“日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013”から引用しコード表にしました。さらに、農林水産省では、「スマイルケア食」と銘打って、これまで介護食といわれていた市販の柔らか食などをこの学会基準に合わせる形でやはり分類しています。今後、病院、施設や在宅で摂食嚥下障害を持った人たちに対して、このものさしが利用されるようになれば、地域連携にも威力を発揮することでしょう。
嚥下調整食コード表(食事)
ペースト状のおもゆや粥
嚥下調整食コード表(飲み物)
コード | 形態 |
---|---|
薄い とろみ |
「drink」するという表現が適切なとろみの程度。口に入れると口腔内に広がる液体の種類・味や温度によっては、とろみが付いていることがあまり気にならない場合もある。飲み込む際に大きな力を要せず、ストローで容易に吸うことができる。スプーンを傾けるとすっと流れ落ち、フォークの歯の間から素早く流れ落ちる。カップを傾け流れ出た後には、うっすらと跡が残る程度の付着。 |
中間の とろみ |
明らかにとろみがあることを感じ、かつ「drink」するという表現が適切なとろみの程度。口腔内での動態はゆっくりですぐには広がらない。舌の上でまとめやすく、ストローで吸うのは抵抗がある。スプーンを傾けると、とろとろと流れ、フォークの歯の間からゆっくりと流れ落ちる。カップを傾け流れ出た後には、全体にコーテイングしたように付着。 |
濃い とろみ |
明らかにとろみが付いていて、まとまりがよい。送り込むのに力が必要。スプーンで「eat」するという表現が適切なとろみの程度。ストローで吸うことは困難で、スプーンを傾けても形状がある程度保たれ流れにくい。フォークの歯の間から流れ出ず、カップを傾けても流れ出ない。(ゆっくりと塊となって落ちる) |
※ 上記のコード分類は、嚥下調整食学会分類2021(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)によるものです。